教会に行くと、ステンドグラスで飾られている窓や天井を見かけることがあります。日本国内の教会でも見ることができますが、中世ヨーロッパのゴシック式の聖堂であれば天井高が高いものは40m以上に設計されていて、大量のステンドグラスで埋め尽くすように装飾されていています。日本国内のものと比べると精巧な図案と技法でかなり大きな規模で模様や風景を描いていますが、それには理由があります。ステンドグラスの歴史と、そこで用いられる意味を説明します。
ステンドグラスの始まり
ステンドグラスとは、着色されたガラスのことで「ステンド」は「染めた」「グラス」は「ガラス」を意味しています。ステンドグラスの元であるガラスが作られた時代は紀元前、古代エジプトやメソポタミアであるといわれています。生活のため焚火をしていると、偶然に火の中で砂と岩塩が溶解して反応したことでできたのではないかという説があります。紀元前1500年頃になると先に粘土で型を作って成型をする方法や、芯を作って高熱で溶かし巻き付けて成型する技術が生まれましたが、今以上に高価なもので、たくさん使用して建物を飾るまでには至りませんでした。
紀元前30年から400年ごろまでのローマでは鉄パイプに溶かしたガラスを巻き付けて息を吹きかけて膨らまして成型する方法が生み出され、円筒形や球形というように形を変えて成型されるようになり、窓を作るのに使うようになります。ガラスも不透明なものよりも透明感のあるものが好まれて使われるようになり、広く普及され、実用化されて定着していきます。ステンドグラスの始まりとはっきりとは言えませんが、製造と言える方法は、かなり前から存在していました。
ステンドグラスが使われ始めたのはいつごろか
ステンドグラスがいつ生まれ、使い始めた場所がどこなのかについては、一つに絞れません。裏付けになる証拠になるものが、何も発見されていないからです。しかし5世紀ごろにはすでに今のような板状のガラスが作られていて、フランスの文献の中にもやっと名前が挙がるようになります。ステンドグラスには1500年以上の歴史があるといえます。その中でも最もたくさんステンドグラスが使われていたのは11世紀から14世紀ごろの中世の時代で、ゴシック様式と言われる大聖堂が世界のいたるところで建てられている時代です。
ゴシック様式の建て方はそれまでのロマネスク様式より壁の厚さが薄く、天井も高くなり、大きな窓を作れるようになります。またステンドグラスを作るときに使用する鋳型の技術もこのころに進歩していたので、人物の表情や草木の様子など、より複雑で細かく描けるようになり、現在世界遺産に指定されるほどの美しい作品が残せるようになります。
ステンドグラスと教会との深い結びつき
教会や聖堂で布教をするキリスト教は、現在では世界中でたくさんの方に信仰されていますが、大聖堂が建てられ始めたころは信仰している人はそれほどいませんでした。また住んでいる人たちもほとんどが農民で、学校に行くこともできないため、文字がわからないので本を読むことができません。もちろん、聖書も読めないので内容が理解できず、キリスト教がどのようなものなのかがわからなかったのです。キリスト教を広く布教するためには神様の存在があって、神とはどのようなものなのかを感覚的にわかるようにする必要があったのです。
キリスト教の司祭達は聖書の中に出てくる場面をステンドグラスで教会の窓に描くことで、キリスト教の教えをわかりやすく示しているためだといわれています。また聖書の中には「神は光である」という内容が記述されています。500年頃にいた著名な神学者が「物質が放つ光の中には、神の光の一部が含まれている」と再解釈して話しました。信仰する人、またしようとしている人にとって、ステンドグラスの美しい光を神様として崇めることは、神様を崇めていることと同じと言えます。大聖堂内を美しく飾ることは、神様がいる天国を再現しようとしていることと同じであるとして、中世の修道院長は自分たちの修道院を今度は徹底的に飾り立てるようにしました。
近代ではどのようにステンドグラスが使われているのか
大聖堂を飾り、キリスト教がどのようなものなのかを教えるのにステンドグラスは使われていましたが、近年ではその美しさと加工のしやすさを利用してアンティークに用いられるようになりました。19世紀に宝石商でもあったティファニーが二代目を継がずに画家としてキャリアを積んだ後に室内装飾家となって、自身が編み出した技法でガラス職人となり、たくさんの作品を残しました。以前は鋳型に溶かしたガラスを流す方法や鉛線で繋ぐ方法で作品を作っていましたが、はんだで接着させるという方法を使うことで、絵画のように繊細な表現ができるようになりました。
ティファニーの作品はランプシェードの細かい模様を描くのに有効活用され、のちに「ティファニーランプ」と呼ばれるほどになります。また日本では、19世紀にフランスから長崎の大浦天主堂へ寄贈された「十字架のキリスト」が初めて登場したステンドグラスの作品と言われており、明治時代を境に制度や習慣が変わり、西洋の技術を多く取り入れることでステンドグラスも輸入に頼ることなく国内で作ろうという動きが出てきます。宗教の教えを伝えるために利用されてきたステンドグラスですが、近代になると装飾や芸術用に使われる頻度が高くなりました。
まとめ
ステンドグラスが使われたのは、キリスト教がどのようなものなのかをたくさんの人に知ってもらうためであり、その光の中に神様がいるという教えが広まったためでした。どの教会や聖堂でもステンドグラスで装飾することで、より信仰があることを明確にしていました。現在では宗教性に関係なく、ステンドグラスの美しさを利用して一般家庭の装飾や美術品創作に使う職人の数も増えてきているので、いたるところで見ることができるようになりました。